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API選定における「無料枠」への依存リスク:Google Geocoder API変更事例と代替策(HERE/ALS)

2025.04.24
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はじめに

こんにちは、エンジニアのsassaです。

今回は、私自身が最近ヒヤリとした経験に基づき、API選定、特に「無料枠」の扱いについてお話ししたいと思います。APIを利用する個人開発者の方々にとって、他人事ではない重要なテーマだと考えています。

きっかけは、私たちが利用している緯度経度から住所を特定するGoogle Maps PlatformのGeocoder APIです。実は、2025年3月頃から無料枠の適用条件などが変更されていたが、正直なところ、その変更にすぐには気づけませんでした。

Googleから料金体系の変更に関するアナウンス(こちらのページで詳細が説明されています)はあったものの、日々の運用の中で見落としてしまいがちですよね。

幸いなことに、たまたま関連機能の改修を行っており、その際に利用状況を詳しく確認したことで、3月初旬にこの変更と、それに伴う想定外のコスト発生リスクに気づくことができました。もし改修のタイミングがずれていたら、あるいは利用状況の確認を怠っていたら…と思うと、冷や汗が出ます。

本記事では、このGoogle Geocoder APIの変更事例を基に、API選定において無料枠へ依存することのリスクを改めて考え、代替APIとしてHEREとAmazon Location Serviceを比較検討したプロセスを共有します。皆さんのAPI選定やサービス運用の参考になれば幸いです。

事例:気づきにくかったGoogle Geocoder API無料枠の変更

Google Maps Platform APIは、数年前に大きな料金体系の変更がありましたが、Geocoder APIなど一部のAPIには比較的手厚い無料枠(月間$200相当)が設定されており、「この範囲なら無料で使える」と判断して利用しているプロジェクトも少なくないでしょう。私たちもその一人でした。

しかし、前述の通り、2024年3月頃から無料枠の適用条件などが変更された模様です。結果として、従来通りの利用方法でも、知らないうちに有料利用が発生する状況になっていました。

ここで重要なのは、この種の変更が必ずしも大々的に、分かりやすく告知されるとは限らないという点です。料金ページや利用規約の更新情報を常に能動的にチェックしていない限り、見落としてしまう可能性は十分にあります。そして、気づかぬうちにコストが増加し、予算計画に影響を与える、といった事態に繋がりかねません。特に予算が限られているプロジェクトにとっては、予期せぬコスト増は大きな負担となり得ます。

教訓:無料枠への過度な依存はリスクを伴う

今回の経験から得られた最大の教訓は、「APIの無料枠は恒久的なものではなく、その条件も変わり得る」という前提でAPIを選定・利用すべきだということです。

無料枠は、開発初期のコスト抑制や小規模な利用においては非常に有効です。しかし、特にサービスのコア機能に関わるAPIにおいて、無料枠が将来も維持されることを前提とした設計や運用計画を立てるのは、高いリスクを伴います。

主なリスク要因としては、

  1. 規約・料金体系変更のリスク: 今回のGoogleの事例のように、条件が変更されたり、告知が分かりにくかったりする可能性があります。
  2. 利用量増加のリスク: サービスの成長に伴い、いずれ無料枠を超える可能性は常にあります。
  3. 突然の変更に伴う移行コスト: 仕様変更や料金変更によって急なAPI移行が必要になった場合、開発コストや機会損失が発生します。

API選定においては、単に「無料だから」という理由だけでなく、将来的な変更の可能性や、それに伴うリスクも考慮に入れる必要があります。

代替APIの検討:HERE vs Amazon Location Service

Google Geocoder APIへの依存リスクを再認識し、私たちは代替となるジオコーディングAPIの調査を開始しました。要件は以下の通りです。

  • サービスの安定供給
  • 明確で予測可能な料金体系
  • 移行の容易さ(可能であれば)
  • 十分なパフォーマンス

検討の結果、有力な候補として挙がったのがHEREAmazon Location Serviceです。

候補1: HERE Maps Geocoding API

地図情報サービスの老舗、HEREが提供するAPIです。

  • 利用機能: Geocode and reverse geocode
  • 無料枠: 月間30,000リクエスト
  • 超過料金: $0.83 / 1,000リクエスト
  • 参照: HERE Base Plan | Location Services | Pricing | HERE (※最新情報は公式をご確認ください)

HEREの大きな利点は、月3万リクエストという明確な無料枠が存在することです。利用量がこの範囲に確実に収まるのであれば、コストメリットは大きいでしょう。ただし、無料枠を超過した場合の単価は、次に紹介するAmazon Location Serviceよりやや高めに設定されています。

候補2: Amazon Location Service(HEREエンジン)

AWSが提供する位置情報サービスです。バックエンドのエンジンとしてEsriまたはHEREを選択できます。今回はHEREエンジンを利用する前提で比較しました。

  • 利用機能: リバースジオコーディングのコア (標準化されたアドレスとカテゴリ)
  • 無料枠: なし
  • 基本料金: $0.5 / 1,000リクエスト
  • 参照: Amazon Location Service の料金 – Amazon Web Services (※最新情報は公式をご確認ください)

Amazon Location Service (ALS) の特徴は、無料枠がない代わりに、利用量に応じた従量課金の単価が比較的安価である点です。最初からコストが発生しますが、料金体系はシンプルです。

比較と決断:Amazon Location Serviceを採用した理由

項目 HERE Maps Geocoding API (Base Plan) Amazon Location Service (HERE Engine)
無料枠 月 30,000 リクエスト なし
1,000リクエストあたり料金 $0.83 (無料枠超過後) $0.5 (最初から)
エンジン HERE HERE (選択可)
統合性 独自API AWSエコシステム
価格予測性 無料枠を超えるか否かで変動 シンプル (利用量 x $0.5/1k)

無料枠のあるHEREも魅力的でしたが、ALSを選んだ主な理由は以下の通りです。

  1. 価格の予測可能性とシンプルさ:

    • 無料枠の存在は、「いつ超過するか」「条件が変わらないか」といった不確実性を内包します。
    • ALSは最初から従量課金ですが、「1,000リクエストあたり$0.5」という明快な料金体系のため、予算策定やコスト管理が容易です。
    • Googleの事例を踏まえ、むしろ無料枠がない方が、コスト管理の観点からはシンプルで安心できると判断しました。
  2. AWSエコシステムとの親和性:

    • 既存のAWSインフラとの連携(IAM管理、他サービスとの連携、請求の一元化)がスムーズに行えるメリットは大きいと判断しました。
  3. スケーラビリティと単価:

    • 利用量が月3万リクエストを恒常的に超える場合、ALSの方が単価が安くなります ($0.5 vs $0.83)。
    • 将来的なサービス拡大を見据えた場合、変動要素の少ないシンプルな料金体系と、スケール時の単価の低さが有利になると考えました。

もちろん、利用量が確実に無料枠内に収まる見込みであれば、HEREは非常に有力な選択肢です。これはプロジェクトの特性や規模に応じて判断すべき点でしょう。

まとめ:API選定における普遍的な注意点

今回のGoogle Geocoder APIの変更事例は、APIを利用する上で重要な教訓を示唆しています。

  • 無料枠は永続しない、あるいは条件が変わる可能性があることを前提とする。
  • 利用規約や料金体系の変更に注意を払い、定期的な確認を怠らない。(変更通知の仕組みなども活用したい)
  • コア機能で利用するAPIは、コストだけでなく、安定性、料金の予測可能性、ベンダーロックインのリスク、代替可能性を総合的に評価して選定する。
  • 依存度の高いAPIについては、常に代替候補を検討し、必要に応じて迅速に移行できる体制を整えておく。

これらの点を考慮し、より堅牢で持続可能なサービス運用を目指していく必要があるでしょう。Amazon Location Serviceへの移行作業については、また別の機会に共有できればと思います。

皆さんのプロジェクトでは、APIの料金体系変更などで予期せぬ事態に直面した経験はありますか?また、ジオコーディングAPIなどで推奨するサービスがあれば、ぜひコメントで教えていただけると嬉しいです。

それでは、また。

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